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■社会保険労務士の勉強メモ(健康保険法)




■通勤災害の判断基準

1.通勤災害の取扱い
法第55条第1項又は法第128条第1項の規定により、通勤災害として給付しないものとするのは、当該事故が通勤災害の範囲に該当するものであるほか、当該被保険者が使用される事業所につき労災保険が適用され又は適用されるべき場合であること。

なお、当該事業所につき労災保険が適用されるべきであるにもかかわらず、その適用が行われていない場合に、その間に発生した通勤災害については、遡つて労災保険から給付されるものであること。

さらに、労災保険の任意適用事業所に使用される被保険者に係る通勤災害については、それが、労災保険の保険関係の成立の日前に発生したものであるときは、健康保険等で給付するものであること。ただし、事業主の申請により、保険関係成立の日から労災保険の通勤災害の給付が行われる場合は、この限りでない。

健康保険等の傷病手当金等現金給付の支給申請につき、その申請に係る傷病が通勤災害に該当するものと考えられるときは、労災保険に対してその支給申請を行うよう被保険者を指導し、その結果をまつて所要の措置を講ずること。
(昭和48年12月1日保険発第105号・庁保険発第24号)

2.「通勤による」の意義
「通勤による」とは通勤と相当因果関係のあること、つまり、通勤に通常伴う危険が具体化したことをいう。

具体的には、通勤の途中において、自動車にひかれた場合、電車が急停車したため転倒して受傷した場合、駅の階段から転落した場合、歩行中にビルの建設現場から落下してきた物体により負傷した場合、転倒したタンクローリーから流れ出す有害物質により急性中毒にかかつた場合等、一般に通勤中に発生した災害は通勤によるものと認められる。

しかし、自殺の場合、その他被災者の故意によつて生じた災害、通勤の途中で怨恨をもつてけんかをしかけて負傷した場合などは、通勤をしていることが原因となつて災害が発生したものではないので、通勤災害とは認められない。
(昭和48年11月22日基発第644号)

(事例)
1.ひったくりに起因する事故の場合
大都市周辺の寂しいところに居住している女子労働者が、夜間退勤する場合には、その途上でひったくりに会い、その際に負傷することは一般にありうることであり、通勤に通常伴う危険が具体化したものと認められる。(昭和49年3月4日基収第69号)

2.他人を救助中の事故の場合
マイカー通勤者が、その通勤経路上において、通行を阻害している運行不能者を救助する行為は、善意行為というよりは、むしろ、自己の通勤のための合理的な行為ということができ、その間に災害を被った場合は、通勤に通常伴う危険が具体化したものと認められる。(昭和49年9月26日基収第2881号)

3.「就業に関し」の意義
「就業に関し」とは、往復行為が業務に就くため又は業務を終えたことにより行われるものであることを必要とする趣旨を示すものである。つまり、通勤と認められるには、往復行為が業務と密接な関連をもって行われることを要することを示すものである。

(1)ここで、まず、労働者が、被災当日において業務に従事することになっていたか否か、又は現実に業務に従事したか否かが、問題となる。

この場合に所定の就業日に所定の就業場所で所定の作業を行なうことが業務であることはいうまでもない。また、事業主の命によつて物品を届けに行く場合にも、これが業務となる。また、このような本来の業務でなくとも、全職員について参加が命じられ、これに参加すると出勤扱いとされるような会社主催の行事に参加する場合等は業務と認められる。

さらに、事業主の命をうけて得意先を接待し、あるいは、得意先との打合せに出席するような場合も、業務となる。逆に、このような事情のない場合、たとえば、休日に会社の運動施設を利用しに行く場合はもとより会社主催ではあるが参加するか否かが労働者の任意とされているような行事に参加するような場合には、業務とならない。

ただし、そのような会社のレクリエーシヨン行事であつても、厚生課員が仕事としてその行事の運営にあたる場合には当然業務となる。また、事業主の命によつて労働者が拘束されないような同僚との懇親会、同僚の送別会への参加等も、業務とはならない。

さらに、労働者が労働組合大会に出席するような場合は、労働組合に雇用されていると認められる専従役職員については就業との関連性が認められるのは当然であるが、一般の組合員については就業との関連性は認められない。

(2)(イ)次にいわゆる出勤の場合の就業との関連性についてであるが、所定の就業日に所定の就業開始時刻を目途に住居を出て就業の場所へ向う場合は、寝すごしによる遅刻、あるいはラツシユを避けるための早出等、時刻的に若干の前後があっても就業との関連性があることはもちろんである。

他方、運動部の練習に参加する等の目的で、例えば、午後の遅番の出勤者であるにもかかわらず、朝から住居を出る等、所定の就業開始時刻とかけ離れた時刻に会社に行く場合には、当該行為は、むしろ当該業務以外の目的のために行われるものと考えられるので、就業との関連性はないと認められる。

なお、日々雇用される労働者については、継続して同一の事業に就業しているような場合は、就業することが確実であり、その際のいわゆる出勤は、就業との関連性が認められるし、また、公共職業安定所等でその日の紹介を受けた後に、紹介先へ向う場合で、その事業で就業することが見込まれるときも、就業との関連性を認めることができる。

しかし、公共職業安定所等でその日の紹介を受けるために住居から公共職業安定所等まで行く行為は、未だ就業できるかどうか確実でない段階であり、職業紹介を受けるための行為であって、就業のための出勤行為であるとはいえない。

(ロ)次にいわゆる退勤の場合であるが、この場合にも、終業後ただちに住居へ向う場合は就業に関するものであることについては、問題がない。このことは、日々雇用される労働者の場合でも同様である。

また、所定の就業時間終了前に早退をするような場合であっても、その日の業務を終了して帰るものと考えられるので、就業との関連性を認められる。

なお、通勤は一日について一回のみしか認められないものではないので、昼休み等就業の時間の間に相当の間隔があつて帰宅するような場合には、昼休みについていえば、午前中の業務を終了して帰り、午後の業務に就くために出勤するものと考えられるので、その往復行為は就業との関連性を認められる。

また、業務の終了後、事業場施設内で、囲碁、麻雀、サークル活動、労働組合の会合に出席をした後に帰宅するような場合には、社会通念上就業と帰宅との直接的関連を失わせると認められるほど長時間となるような場合を除き、就業との関連性を認めてもさしつかえない。
(昭和48年11月22日基発第644号)

4.「住居」の意義
「住居」とは、労働者が居住して日常生活の用に供している家屋等の場所で、本人の就業のための拠点となるところをさすものである。
したがつて、就業の必要性があつて、労働者が家族の住む場所とは別に就業の場所の近くに単身でアパートを借りたり、下宿をしてそこから通勤しているような場合は、そこが住居である。

さらに通常は家族のいる所から出勤するが、別のアパート等を借りていて、早出や長時間の残業の場合には当該アパートに泊り、そこから通勤するような場合には、当該家族の住居とアパートの双方が住居と認められる。

また、長時間の残業や、早出出勤及び平成三年二月一日付け基発第七五号通達における新規赴任、転勤のため等の勤務上の事情や、交通ストライキ等交通事情、台風などの自然現象等の不可抗力的な事情により、一時的に通常の住居以外の場所に宿泊するような場合には、やむを得ない事情で就業のために一時的に居住の場所を移していると認められるので、当該場所を住居と認めてさしつかえない。

逆に、友人宅で麻雀をし、翌朝そこから直接出勤する場合等は、就業の拠点となつているものではないので、住居とは認められない。
(昭和48年11月22日基発第644号)

5.「就業の場所」の意義
「就業の場所」とは、業務を開始し、又は終了する場所をいう。
業務の意義については上記3の(1)についてのべたところであるが、具体的な就業の場所には、本来の業務を行う場所のほか、物品を得意先に届けてその届け先から直接帰宅する場合の物品の届け先、全員参加で出勤扱いとなる会社主催の運動会の会場等がこれにあたることとなる。

なお、外勤業務に従事する労働者で、特定区域を担当し、区域内にある数カ所の用務先を受け持つて自宅との間を往復している場合には、自宅を出てから最初の用務先が業務開始の場所であり、最後の用務先が、業務終了の場所と認められる。
(昭和48年11月22日基発第644号)

6.「合理的な経路及び方法」の意義
「合理的な経路及び方法」とは、当該住居と就業の場所との間を往復する場合に、一般に労働者が用いるものと認められる経路及び手段等をいうものである。

(1)これをとくに経路に限つていえば、乗車定期券に表示され、あるいは、会社に届出ているような鉄道、バス等の通常利用する経路及び通常これに代替することが考えられる経路等が合理的な経路となることはいうまでもない。
また、タクシー等を利用する場合に、通常利用することが考えられる経路が二、三あるような場合には、その経路は、いずれも合理的な経路となる。
また、経路の道路工事、デモ行進等当日の交通事情により迂回してとる経路、マイカー通勤者が貸切の車庫を経由して通る経路等通勤のためにやむを得ずとることとなる経路は合理的な経路となる。

さらに、他に子供を監護する者がいない共稼労働者などが託児所、親せき等に子供をあずけるためにとる経路などは、そのような立場にある労働者であれば、当然、就業のためにとらざるを得ない経路であるので、合理的な経路となるものと認められる。

逆に、上にのべたところから明らかなように、特段の合理的な理由もなく著しく遠まわりとなるような経路をとる場合には、これは合理的な経路とは認められないことはいうまでもない。また、経路は、手段とあわせて合理的なものであることを要し、鉄道線路、鉄橋、トンネル等を歩行して通る場合は、合理的な経路とはならない。

(2)次に合理的な方法についてであるが、鉄道、バス等の公共交通機関を利用し、自動車、自転車等を本来の用法に従つて使用する場合、徒歩の場合等、通常用いられる交通方法は、当該労働者が平常用いているか否かにかかわらず一般に合理的な方法と認められる。

しかし、たとえば、免許を一度も取得したことのないような者が自動車を運転する場合、自動車、自転車等を泥酔して運転するような場合には、合理的な方法と認められないこととなる。
なお、軽い飲酒運転の場合、単なる免許証不携帯、免許証更新忘れによる無免許運転の場合等は、必らずしも、合理性を欠くものとして取り扱う必要はないが、この場合において、諸般の事情を勘案し、給付の支給制限が行われることがあることは当然である。
(昭和48年11月22日基発第644号)

7.「業務の性質を有するもの」の意義
「業務の性質を有するもの」とは、以上にのべた二から五までの要件をみたす往復行為ではあるが、当該往復行為による災害が業務災害と解されるものをいう。

具体例としては、従来からの取扱いどおり、事業主の提供する専用交通機関を利用してする通勤、突発的事故等による緊急用務のため、休日又は休暇中に呼出しを受け予定外に緊急出勤する場合がこれにあたる。
(昭和48年11月22日基発第644号)

8.「逸脱」、「中断」及び「日用品の購入その他これに準ずる日常生活上必要な行為をやむを得ない事由により行なうための最少限度のもの」の意義

(1)「逸脱」とは、通勤の途中において就業又は通勤とは関係のない目的で合理的な経路をそれることをいい、「中断」とは、通勤の経路上において通勤とは関係のない行為を行うことをいう。

逸脱、中断の具体例をあげれば、通勤の途中で麻雀を行う場合、映画館に入いる場合、バー、キヤバレー等で飲酒する場合、デートのため長時間にわたつてベンチで話しこんだり、経路からはずれる場合がこれに該当する。
しかし、労働者が通勤の途中において、経路の近くにある公衆便所を使用する場合、帰途に経路の近くにある公園で短時間休息する場合や、経路上の店でタバコ、雑誌等を購入する場合、駅構内でジユースの立飲みをする場合、経路上の店で渇をいやすため極く短時間、お茶、ビール等を飲む場合、経路上で商売している大道の手相見、人相見に立寄つて極く短時間手相や人相をみてもらう場合等のように労働者が通常通勤の途中で行うようなささいな行為を行う場合には、逸脱、中断として取扱う必要はない。

ただし、飲み屋やビヤホール等において、長時間にわたつて腰をおちつけるに至つた場合や、経路からはずれ又は門戸をかまえた観相家のところで、長時間にわたり、手相、人相等をみてもらう場合等は、逸脱、中断に該当する。

(2)通勤の途中において、労働者が逸脱、中断をする場合には、その後は就業に関してする行為というよりも、むしろ、逸脱又は中断の目的に関してする行為と考えられるので、その後は一切通勤とは認められないのであるが、これについては、通勤の実態を考慮して法律で例外が設けられ、通勤途中で日用品の購入その他日常生活上必要な行為をやむを得ない事由により最少限度の範囲で行う場合には、当該逸脱又は中断の間を除き、合理的な経路に復した後は通勤と認められることとされている。

「日用品の購入その他これに準ずる日常生活上必要な行為」の具体例としては、帰途で惣菜等を購入する場合、独身労働者が食堂に食事に立ち寄る場合、クリーニング店に立ち寄る場合、通勤の途次に病院、診療所で治療を受ける場合、選挙の投票に寄る場合等がこれに該当する。

なお、「やむを得ない事由により行なうため」とは、日常生活の必要から通勤の途中で行なう必要のあることをいい、「最少限度のもの」とは、当該逸脱又は中断の原因となつた行為の目的達成のために必要とする最少限度の時間、距離等をいうものである。
(昭和48年11月22日基発第644号)

(事例)
1.帰宅途中に美容院に寄った場合
美容院でパーマネントをかける行為は、「逸脱」又は「中断」に該当し、また、「日用品の購入その他これに準ずる日常生活上必要な行為」には該当しない。(昭和50年4月7日基収第3309号)

2.帰宅途中に喫茶店に寄った場合
帰宅途中、経路上の喫茶店に立ち寄り40分程度過した行為は、「逸脱」又は「中断」に該当し、また、「日用品の購入その他これに準ずる日常生活上必要な行為をやむを得ない事由により行なうやめの最小限度のもの」には該当しない。(昭和50年4月7日基収第3309号)

  

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