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トップページ過去問研究室(労働基準法) 平成17年労基-第1問(労働基準法に定める賃金等)
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■平成17年労基-第1問(労働基準法に定める賃金等)

労働基準法に定める賃金等に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。

(A)ある会社で、出来高払制で使用する労働者について、保障給として、労働時間に応じ1時間当たり、過去3か月間に支払った賃金の総額をその期間の総労働時間数で除した金額の60パーセントを保障する旨を規定し、これに基づいて支払いを行っていた。これは、労働基準法第27条の出来高払制の保障給に関する規定に違反するものではない。

(B)毎月15日に当月の1日から月末までの賃金を支払うこととなっている場合において、月の後半に2日間の欠勤があり賃金を控除する必要が生じたときは、過払いとなる賃金を翌月分の賃金で清算する程度は賃金それ自体の計算に関するものであるから、労働基準法第24条の賃金の支払いに関する規定(賃金全額払の原則)の違反とは認められない。

(C)最高裁の判例によると、労働基準法第24条第1項ただし書の要件を具備する「チェック・オフ(労働組合費の控除)」協定の締結は、これにより、同協定に基づく使用者のチェック・オフが同項本文所定の賃金全額払の原則の例外とされ、同法第120条第1号所定の罰則の適用を受けないという効力を有するにすぎない、とされている。

(D)使用者が、通勤手当の代わりとして、6か月ごとに通勤定期乗車券を購入し、これを労働者に支給している場合、通勤手当は賃金ではあるが、6か月ごとに支給される通勤定期乗車券は、労働基準法第12条第4項に定める「 三箇月を超える期間ごとに支払われる賃金」に該当するので、平均賃金算定の基礎となる賃金には算入されない。

(E)最高裁の判例によると、労働基準法第26条の「使用者の責に帰すべき事由」は、取引における一般原則たる過失責任主義とは異なる観点をも踏まえた概念というべきであって、民法第536条第2項の「債権者の責めに帰すべき事由」よりも広く、使用者側に起因する経営、管理上の障害を含むものと解するのが相当であるとされている。



■解説

(A)正解
法27条、昭和22年9月13日発基17号、昭和63年3月14日基発150号
出来高払制の保障給は、出来高払制等で勤務する労働者が、労働したにもかかわらず、ノルマが達成できなかったなどの理由で、低額の賃金しか受けられない事態を防止するために、労働時間に応じた一定額の保障給の支払いを使用者に義務づけたものであるが、その保障給の額については法27条に規定されていない。
しかしながら、労働者の最低生活を保障するという意味からも、出来高払制の保障給は、「労働者の責に基づかない事由によって、実収賃金が低下することを防ぐ主旨であるから、労働者に対し、常に通常の実収賃金を余りへだたらない程度の収入が保障されるように保障給の額を定めること」とされている。
問題文の場合は、法26条の休業手当と同程度の水準であり、この要件を満たしていると考えられる。

(B)正解
法24条1項、昭和23年9月14日基発1357号、福島県教組事件(昭和44年12月18日最高裁判決)
適正な賃金を支払うための調整的相殺の場合は、本来支払われるべき賃金が支払われるだけであり、その調整の時期、金額、方法等から見て、労働者の経済的生活の安定との関係上、不当と認められない場合は、賃金全額払の原則に違反しない。

(C)正解
法24条1項但書、エッソ石油事件(平成5年3月25日最高裁判決)
チェック・オフ協定の締結は、法24条(賃金の支払)の規定違反として、法120条第1号所定の罰則の適用を受けないという、免罰効果を有するにすぎず、チェック・オフ協定が労働協約の形式により締結されたとしても、当然に使用者がチェック・オフする権限を取得するものではないことはもとより、組合員がチェック・オフを受忍すべき義務を負うものではない。
よって、組合員は、使用者に対していつでもチェック・オフの中止を申出することができ、その場合は、使用者はその組合員に対するチェック・オフを中止しなければならない。

(D)誤り
法12条4項、昭和33年2月13日基発90号
6か月ごとに支給される通勤定期乗車券は、各月の賃金の前払いと認められるので、平均賃金算定の基礎となる賃金に算入する必要がある。

(E)正解
法26条、ノースウエスト航空事件(昭和62年7月17日最高裁判決)
雇用契約とは、労働者が労務に服することを約束し、使用者がこれに報酬を与えることを約束する契約をいう。
これを労務の提供という立場から考えると労働者は使用者に(労務を提供するという)債務を負っており、使用者はその労務を受領する債権があるということができ、その反対給付として、使用者は労働者に賃金を支払う義務(債務)を負っており、労働者は賃金を受領する債権があるといえる。
しかしながら、この雇用契約をそのまま当てはめると、使用者(債権者)の責任で労働者(債務者)が労務の提供をできない場合でも、その反対給付である賃金を受け取ることができなくなってしまう。
そこで、法26条では「使用者の責めに帰すべき事由」による休業の場合は休業手当を支払うことを使用者に命じている。
また、民法536条2項では「債権者(使用者)の責めに帰すべき事由によって債務(労務の提供)を履行できなくなったときは、債務者(労働者)は反対給付(賃金)を受ける権利を失わない」として、使用者の責任で労務の提供ができない場合でも労働者は賃金全額の請求権を失わないこととしている。
しかし、ここでの「債権者(使用者)の責めに帰すべき事由」とは、使用者の故意、過失が問われるもの(例えば、イヤガラセで自宅待機を命じる場合など)であり、機械の故障や原料不足といった経営管理上の障害をも含む法26条の「使用者の責めに帰すべき事由」よりもその範囲が狭いとされている。
よって、使用者が休業を命じた場合、その休業が使用者の故意・過失によるものである場合は、民法536条2項の規定により、賃金全額を請求でき、使用者側に起因する経営管理上の障害によるものである場合は、法26条の休業手当を請求することができ、そのどちらにもあてはまらない場合(例えば、事業場内の一部の労働者のストライキにより、ストライキに参加しなかった労働者が労働することが社会通念上不能又は無価値となり、使用者がストライキ不参加の労働者に休業を命じた場合など←ストライキは使用者が制御できないものであるため)は使用者の責任による事由でないとして、(労務の提供のない)労働者は賃金を請求することはできないとされている。

  

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