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■平成13年労災-第5問(「故意」の解釈)

労災保険法第12条の2の2第1項は、「労働者が、故意に負傷、疾病、障害若しくは死亡又はその直接の原因となった事故を生じさせたときは、政府は、保険給付を行わない。」と定めている。この規定にいう「故意」の解釈として、次の記述のうち、誤っているものはどれか。

(A)「故意」とは、自己の行為により一定の結果が生ずることを認識し、かつ、その結果の発生を認容していることをいう。したがって、例えば、重油を船から送油パイプを通じてタンクローリー車に送り込む陸揚げ作業中、同僚労働者がタンクの重油内に転落したのを見て、直ちに救出するためタンク内に降りようとしたところ、足を滑らしてタンクの重油内に転落し、死亡したという場合には、たしかに業務と密接な関連があるとはいえ、そうした危険の発生について認識があり、かつ、それを認容したうえでの救出行為によるものとみることができるので、その死亡は、「故意」によるものといわざるを得ない。

(B)無免許運転が危険であることを知りながら資格を詐称して貨物自動車を運転し、急スピードのまま急カーブを切ろうとして転覆し、負傷したのは、労災保険法第12条の2の2第2項に規定する「故意の犯罪行為又は重大な過失」による負傷ではあるが、「故意」による負傷には該当しない。

(C)労働者が遺書を残して自殺したという場合、遺書があるからといって正常な認識、行為能力が著しく阻害されていなかった、すなわち「故意」による死亡と判断することは必ずしも妥当ではない。

(D)ある設計技師が地上建造物についての設計関連業務に従事していたところ、工事の施工に難渋する状態が続き、当人は、その精神的負担から、うつ状態に陥り自殺を図って重傷を負ったと認められる場合、これを「故意」による負傷とはいえない。

(E)業務上の心理的負荷に起因する精神障害によって正常な認識、行為選択の能力が著しく阻害され、あるいは自殺を思い止まる精神的な抑制力が著しく阻害されている状態において自殺が行われたと認められる場合には「故意」による死亡には該当しない。



■解説

(A)誤り
法12条の2第1項、昭和34年12月26日基収9335号、昭和40年7月31日基発901号
故意とは、結果の発生を意図した場合だけでなく、自らの行為によって結果の発生を認識し、認容している場合(その行動をとればその結果どうなるかを認識していること)も含まれる。
労働者が結果の発生を意図した故意により事故を生じさせた場合は絶対的給付制限の対象になる。
しかし、被災労働者が結果の発生を認容していても業務との因果関係が認められる事故については「故意」による事故とは扱わず、業務災害として認められることになる。
よって、問題文の事例の場合は、「故意」によるものとみなされず、保険給付の対象となる。

(B)正解
法12条の2第2項、昭和23年3月5日基発405号、昭和40年7月31日基発901号
問題文の事故については、その発生を意図した「故意」によるものではないので、「故意の犯罪行為又は重大な過失」により生じたものに該当する。
よって絶対的給付制限の対象ではなく、全部又は一部の給付制限となる。
なお、「故意の犯罪行為」とは、事故の発生を意図した故意はないが、その原因となる犯罪行為が故意であるものをいうとされている。

(C)正解
法12条の2第1項、平成11年9月14日基発544号
遺書等の存在について、それ自体で正常な認識、行為選択能力が著しく阻害されていなかったと判断することは必ずしも妥当ではなく、遺書等の表現、内容、作成時の状況等を把握の上、自殺に至る経緯に係る一資料として評価することになっている。

(D)正解
法12条の2第1項、昭和59年2月14日基収330号
問題文の場合の自殺未遂による負傷については、設計業務における種々の困難性等から生じた著しい精神負担を受けたことにより発した「うつ病」によるものであり、「故意」による負傷とはいえない。
よって、業務災害として保険給付の対象となる。

(E)正解
法12条の2第1項、平成11年9月14日基発544号
業務による心理的負荷によって精神障害が発病したと認められる者が自殺を図った場合には、精神障害によって正常の認識、行為選択能力が著しく阻害され、又は自殺行為を思いとどまる精神的な抑制力が著しく阻害されている状態で自殺が行われたものと推定し、原則として業務起因性が認められることになっている。

 

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