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トップページ過去問研究室(労災保険法) 平成29年労災-第1問(業務災害)
■社会保険労務士試験過去問研究室




■平成29年労災-第1問(業務災害)

業務災害に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。

(A)企業に所属して、労働契約に基づき労働者として野球を行う者が、企業の代表選手として実業団野球大会に出場するのに備え、事業主が定めた練習計画以外の自主的な運動をしていた際に負傷した場合、業務上として取り扱われる。

(B)A会社の大型トラックを運転して会社の荷物を運んでいた労働者Bは、Cの運転するD会社のトラックと出会ったが、道路の幅が狭くトラックの擦れ違いが不可能であったため、D会社のトラックはその後方の待避所へ後退するため約20メートルバックしたところで停止し、徐行に相当困難な様子であった。これを見かねたBが、Cに代わって運転台に乗り、後退しようとしたが運転を誤り、道路から断崖を墜落し即死した場合、業務上として取り扱われる。

(C)乗組員6名の漁船が、作業を終えて帰港途中に、船内で夕食としてフグ汁が出された。乗組員のうち、船酔いで食べなかった1名を除く5名が食後、中毒症状を呈した。海上のため手当てできず、そのまま帰港し、直ちに医師の手当てを受けたが重傷の1名が死亡した。船中での食事は、会社の給食として慣習的に行われており、フグの給食が慣習になっていた。この場合、業務上として取り扱われる。

(D)会社が人員整理のため、指名解雇通知を行い、労働組合はこれを争い、使用者は裁判所に被解雇者の事業場立入禁止の仮処分申請を行い、労働組合は裁判所に協議約款違反による無効確認訴訟を提起し、併せて被解雇者の身分保全の仮処分を申請していたところ、労働組合は裁判所の決定を待たずに被解雇者らを就労させ、作業中に負傷事故が発生した。この場合、業務外として取り扱われる。

(E)川の護岸築堤工事現場で土砂の切取り作業をしていた労働者が、土蜂に足を刺され、そのショックで死亡した。蜂の巣は、土砂の切取り面先約30センチメートル程度の土の中にあったことが後でわかり、当日は数匹の蜂が付近を飛び回っており、労働者も使用者もどこかに巣があるのだろうと思っていた。この場合、業務上として取り扱われる。



■解説

(A)誤り
法7条、平成12年5月18日基発366号
労働者が運動競技に伴い被災した場合に、これが業務上となるためには運動競技が当該労働者の「業務行為」と認められる必要があるが、その判断基準は次のとおりとされている。
1.運動競技会出場に伴う災害について
(1)対外的な運動競技会
@運動競技会出場が、出張又は出勤として取り扱われるものであること。
A運動競技会出場に関して、必要な旅行費用等の負担が事業主により行われ(競技団体等が全部又は一部を負担する場合を含む。)、労働者が負担するものではないこと。
なお、労働者が個人として運動競技会に出場する場合において上記(1)及び(2)の要件を形式上満たすにすぎない場合には、事業主の便宜供与があったものと解されることから「業務行為」とは認められない。
(2)事業場内の運動競技会
@運動競技会は、同一の事業場又は同一企業に所属する労働者全員の出場を意図して行われるものであること。
A運動競技会当日は、勤務を要する日とされ、出場しない場合には欠勤したものとして取り扱われること。
2.運動競技の練習に伴う災害について
労働者が行う練習については、上記1の(1)に掲げる要件に加え、事業主が予め定めた練習計画に従って行われるものであること。なお、ここでいう「練習計画」は、@練習に係る時間、場所及び内容が定められていることが必要であること。A事業主が予め認めた範囲内において、労働者に当該練習計画の変更についての裁量が与えられているものであっても、これに該当するものであること。したがって、練習計画とは別に、労働者が自らの意思で行う運動は、ここでいう「運動競技の練習」には該当しないものであること。
よって、「業務上として取り扱われる。」とした問題文は誤りとなる。

(B)正解
法7条、昭和31年3月31日昭和30基収5597号
労働者の行為ないし行動には、直ちに担当業務行為とはいえないが、さりとて単なる私的行為ともいえない性質のものがあり、それが労働関係の状況、当該労働者の生活関係等に応じて、さまざまなかたちをとって現われる。それが、事業主の特別の業務命令等により積極的に是認されている場合には、その行為自体が担当業務行為となるのであるが、このような事業主からの積極的な是認を受けていない場合は、その行為が業務行為に含まれるかどうか、あるいは付随するものかどうかで判断されることになる。
問題文の事例のように、運転未熟を見かねた他運転手の運転中の転落事故は、業務上の負傷に該当することとされている。
よって、問題文は正解となる。
なお、自動車修理工が無免許のまま試運転して生じた事故(昭和23年1月15日基発51号)、製材工が作業続行のため電柱のトランス修理中に感電死した場合(昭和23年12月17日基災発243号)、上司の私宅へ人夫確保について報告に行く途中の負傷事故(昭和24年4月8日基収891号)、パンク修理の結果の確認を命ぜられた労働者が独断でエンジン修理のため無免許運転していく途中の事故(昭和26年7月15日基収2826号)、貨物自動車運転手が積荷のために切断された電線を修理する際の感電死(昭和26年12月13日基収5224号)、磨砕場で労働者が工場内の塵を抑えるため散水用の水を運搬中に転倒し、頭部を打撲して死亡した場合(昭和30年1月26日基収6002号)、仕事を終えたのち同僚の食糧運搬を応援し途中で崖下に転落した飯場労働者の死亡(昭和30年11月4日基収5187号)、電柱のクレオソート塗布をしていた電力会社従業員が需要家の要請により動力線の修理中に感電墜落して負傷した場合(昭和31年3月31日昭和30基収4708号)、運転未熟を見かねた他運転手の運転中の転落事故(昭和31年3月31日昭和30基収5597号)、急病の運転手と交替した無免許の助手の運転未熟による事故(昭和32年2月22日基収576号)、作業に必要な私物の眼鏡を自宅に忘れた労働者が、上司の了解を得て、家人が届けてくれた眼鏡を工場の門まで自転車で受け取りに行く途中の事故(昭和32年7月20日基収3615号)、運転手が現場を離れている間に対向車を避けるためトラックを移動させようとした無免許の現場事務員の死亡事故(昭和36年12月28日昭36労第61号)、いずれも業務上とされている。
また、トラックの車体検査受検のため検査上へ行き、同所のストーブ煙突取外しを手伝って転落死亡した場合(昭和32年9月17日基収4722号)、無免許で自己の担当業務外のタイヤショベル運転中の砂利採取現場の雑役夫の災害(昭和44年9月30日昭43労第305号)は業務外とされている。

(C)正解
法7条、昭和26年2月16日基災発111号
事業場施設の利用は、就業中においても色々な場合に行われるが、多く問題になるのは就業時間外における施設利用中の災害である。事業場施設には、直接に業務運営の用に供する敷地、建造物、建物附属機械器具、調度品、作業用の設備、機械器具、原材料、製品、自家用車等々のほか、労働者の利用に供されるものとしては、更衣所、便所、洗面所、食堂、風呂場、休憩所、娯楽室、運動設備、通勤専用バスその他の福利施設、医療・看護施設あるいは事業場附属寄宿舎等々がある。
これらの諸施設の利用中、その利用に起因して災害が発生したときは、それが当該施設(又はその管理)に起因していることが証明されれば業務起因性が認められることになり、この証明がなければ、一般には業務起因性が認められないこととなる。以上のほか施設利用として考えられるものに、事業主の行う健康診断を受ける等、広義における医療施設の利用がある。このような場合にも、その施設の状況、診断方法、治療処置等に起因して災害を生じたときは、業務起因性が認められる場合がある。
問題文の事例のように、船中での食事が、会社の給食として慣習的に行われており、フグの給食が慣習になっていた場合は、業務上の災害に該当することになる。
よって、問題文は正解となる。
なお、寄宿舎浴場で入浴中の感電死(昭和23年1月7日基災発29号)、作業開始前の焚火による火傷(昭和23年6月1日基発1485号)、造材事業場附属寄宿舎の火事による死傷(昭和33年9月8日基収3264号)、事業場附属寄宿舎内で火災を発生せしめ焼死した場合(昭和39年12月26日基収5754号)は、いずれも業務上とされている。また、隣の飯場からもらった飯ずしによる食中毒(昭和32年7月31日昭32労第4号)は業務外とされた。

(D)正解
法7条、昭和28年12月18日基収4466号
作業中に発生した災害は、大部分が業務災害であると思われるが、災害発生の具体的事情によって、果たして業務に従事していたといえるかどうか、業務に従事していたとしてもその災害が業務外の事由によって生じたものでないかどうかを考えて業務上外の認定をする必要がある。
問題文の事例のように、人員整理に関し会社と労働組合との抗争中に被解雇者が強行就労し、作業中に負傷した場合は、業務外の負傷とされる。
よって、問題文は正解となる。
なお、泥酔してトラックから転落した助手の死亡(昭和24年7月15日基災収3845号)、顔見知りの他人の興味に応じて運転をさせて生じた事故による砂利トラック運転手の負傷(昭和26年4月13日基収1497号)は、いずれも業務外の負傷とされている。

(E)正解
法7条、昭和25年10月27日基収2693号
作業中に発生した災害は、大部分が業務災害であると思われるが、災害発生の具体的事情によって、果たして業務に従事していたといえるかどうか、業務に従事していたとしてもその災害が業務外の事由によって生じたものでないかどうかを考えて業務上外の認定をする必要がある。
問題文の事例のように、土木作業員が作業中に蜂に刺されショック死した場合は、業務上の負傷に該当することになる。
よって、問題文は正解となる。
なお、電車の発車に際し乗客満員のためやむなく連結機に飛び乗ろうとして転落死した車掌の場合(昭和25年5月11日基収1391号)、上司の雑用をしていた用務員の感電死(昭和25年11月10日基収3237号)、作業中、草むらの中に棲息していた毒蛇に足を咬まれて負傷した場合(昭和27年9月6日基災収3026号)、野菜採取中に隣家の馬に蹴られた農業労働者の死亡(昭和34年4月28日基収141号)、建築作業中の突風による建物倒壊による負傷(昭和26年9月27日基災収1798号)、強要されて道路工に運転させたために生じた運転手の事故(昭和30年5月21日基収457号)、就業時間中に寒冷のため作業場のストーブの傍に寄ったところ貧血を生じて昏倒し火傷により死亡した場合(昭和38年9月30日基収2868号)はいずれも業務上とされた。
また、泥酔してトラックから転落した助手の死亡(昭和24年7月15日基災収3845号)、顔見知りの他人の興味に応じて運転をさせて生じた事故による砂利トラック運転手の負傷(昭和26年4月13日基収1497号)、人員整理に関し会社と労働組合との抗争中に被解雇者が強行就労し、作業中に負傷した場合(昭和28年12月18日基収4466号)は、いずれも業務外の負傷とされている。

  

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